全国で整備が進む救命救急センターの役割と治療の流れ
救命救急センターとは、地域医療計画に基づいて全国の都道府県が整備を進めてきた救急医療の専門施設のことで、都道府県が補助金を国と折半して設置しています。現在、全国に約270の救命救急センターが設置されています。単純な数では計画当初の目標をクリアしているのですが、地域による偏在があるため、まだまだ不十分な地域も少なくありません。
従来の国立大学(現在:国立大学法人)は文部科学省が管轄する施設でしたが、都道府県が国に補助金を出すことはできなかったため、旧国立大学の附属病院には原則、救命救急センターを設置することはできませんでした。そのため、救命救急センターの多くは県立病院、市立病院、日赤、済生会などの公立あるいは公的病院と、私立医科大学の附属病院に設置されています。
救命救急センターの診療形態は、地域や施設の状況によって異なります。医師や看護師を始めとするスタッフが豊富な大学病院などでは、救命救急センター専属のチームが編成されて患者さんの治療にあたっています。高い医療水準を確保するには、その領域の専門医をそろえておく必要があり、外科、内科、脳神経外科、整形外科、集中治療専門医などがチームを構成しています。
一方、一般病院に併設された救命救急センターでは、中心となる救急医や集中治療医が専従として働いており、各診療科の医師が状況に応じて協力する体制をとっています。
救命救急センターのうち、四肢切断、広範囲熱傷、急性大動脈疾患、急性中毒などの特殊疾病患者の治療を行うために、地域の中核的施設を「高度救命救急センター」として整備しています。また、一般の救命救急センターは病床数が20~30程度(ICUベッド含む)ですが、人口密度の低い地域に三次救急医療施設を確保する目的で設置された、10小規模の救命救急センターを「地域救命救急センター」といい全国で整備が進められています。
24時間体制で救急患者を受け入れる救命救急センターでは、専用のベッド、ICU(集中治療室)、救命蘇生室、X線撮影などの設備が整備されています。大規模なセンターでは専用の手術室やヘリポートを有しているところもあります。
いつでも重症の救急患者を受け入れるためには、専用の設備だけでなく、医師や看護師などの人的リソースの確保も必要です。救命救急センターのセンター長には、日本救急医学会の指導医などの資格を持つ救急医療の専門家が求められてます。また患者の診療だけでなく、医師、研修医、医学生、看護師、救急救命士などへの臨床教育を行うことも救命救急センターの重要な役割です。そのためさまざまな職種の関係者が仕事や研修でセンターに出入りしています。
救命救急センターに搬送された患者さんの流れは、①救急蘇生・初療室、②ICU(集中治療室)、③重症患者室、④一般病室、となっています。初療室とは一般の方には馴染みのない用語ですが、蘇生用ベッド、除細動器や緊急医薬品、心電図モニター、エコー検査装置、X線撮影装置など、蘇生や緊急処置に必要な機材が揃っています。超緊急時には蘇生ベッドが手術台となって、緊急開胸術や開腹術が行われます。
蘇生に成功した、あるいは救急処置を終えた患者さんが移動するのが、高度な医療機器を駆使して呼吸・循環を安定させるICU(集中治療室)です。ICUの代表的な機器は、人工呼吸器で、コンピュータ制御で患者さんの状態に応じたこきゅの管理ができます。人工呼吸器や血液浄化のための機器などを安全に使用するためには、医療機器の専門知識を有した臨床工学士(ME)の協力が欠かせません。