麻酔科医、看護師、臨床工学技士らとチームを組んで手術を行う外科医の1日
心臓は全身に血液を送るという生命活動に欠かせない役割を担っている大切な臓器です。しかし、先天的な障害や病気で心臓の形などに異常があると、うまく血液が流れなかったりして十分に働かない場合があります。こうした患者さんが健康な生活を送ることができるよう、手術で治療をするのが心臓血管外科医の仕事です。
7:30頃に出勤するとすぐに手術着に着替えて、白衣を羽織ってCCU(Coronary Care Unit:冠疾患集中治療室)に足を運びます。手術後などで特に重い症状を持つ患者さんを24時間体制で観察するための施設です。看護師らスタッフから入院患者さんの様子を確認し、どのような処置を行うかを検討・指示します。続いて研修医、看護師と一緒に病棟に向かって朝の回診を行います。病室で看護師たちスタッフと協力して患者さんの状態を見て、聴診器を当てて異常がないかを確認します。手術を控えた患者さんがいる場合、家族に手術内容を説明します。
回診を終えて8:30頃に自室に戻り、朝食のパンを片手にメールの確認などを行った後、PCで患者さんのカルテや患部の画像を見ながら、予定されているの手術の方法を確認します。患者さんの年齢が低く血管がとても細いなどの理由で手術が難しい場合には、練習器を使って細かい血管を縫う練習をすることもあります。
手術の1時間ほど前になると手術室に入り、手術に使用する拡大鏡などの道具を確認します。手術室では麻酔を担当する麻酔医、患者さんの容体をチェックしたり(外回り)、手術に必要な器具を執刀医に手渡す役割(器械出し)を担う手術室看護師、人工心肺を管理する臨床工学技士もすでに準備を始めています。執刀医とそれぞれの部門の専門家たちがチームで協力をして、患者さんの命を助けるために手術をするのです。
また、手術室は患者さんの傷口に雑菌などが入らないように厳しい衛生管理が行われています。心臓外科医は髪が出ないようにキャップをかぶり、薬品で手を洗い消毒します。さらに術衣の上に手術用のガウンと手袋をつけ、万全の衛生管理を心掛けています。
院内感染を予防するために十分に消毒された手術道具が運び込まれ、患者さんが入って手術の開始が近づくと、手術室には張りつめた空気が流れます。患者さんに麻酔をかけたうえで、胸を切開し、直接心臓に処置を施していきます。心臓と肺の血の流れを止めるために人工心肺装置をつなげると、手術の本番となります。普段は3人の心臓血管外科医が手術を担当しています。患者さんの右側に立つのがメインの執刀医で、向かい側が第一助手、さらに患者さんの足元にいるのが第二助手です。
手術は予定通り3時間で無事に終了しました。呼吸を補助する人工呼吸器は、まだつけていますが、患者さんの心臓は自分の力で動き始めています。看護師に術後の処置を指示した後、患者さんの家族がいるところに向かい、手術の成功を報告します。
手術を終えた患者さんは状態が安定するまでの数日間、CCUで状態をチェックします。執刀医も患者さんに付き添ってCCUに移動し、その途中で患者さんは術後初めて家族と対面します。CCUではモニターで血圧や体温などをチェックしながら、薬薬の種類や分量の指示を出します。術後の処置が終わったら、家族に手術の経過と今後の見通しなどを詳しく説明します。
今後の治療に役立てるため、手術の記録をしっかりとつけます。よりよい処置法を探るために同じ心臓血管外科のほかの医師と話をすることもあります。その後はまたほかの患者さんの様子を見て、次の手術の準備に取り掛かります。1日のすべての仕事が終わるのはだいたい20時くらいです。宿直当番がある日は、急患が出た場合に備えて病院に泊まるため、なかなかゆっくり休むことができないこともあります。