全身の臓器や筋肉、ホルモン等の働きをつかさどる脳には、その多くの機能を支えるために多くの血管や神経が存在しています。脳の血管が破裂して起こる脳出血やくも膜下出血、血管が詰まる脳梗塞、あるいは脳腫瘍や外傷の治療を行うのが脳神経外科の役割です。
脳神経外科を受診する患者さんの多くは、頭痛や眩暈、顔面の麻痺、手足の痺れ、呂律がまわらないなどの症状を訴えて来院します。頭が割れるような頭痛、時には意識障害で救急搬送されてくる患者さんもいます。脳疾患は治療が遅れると生命に重大な危険を及ぼしたり、重い後遺症が残る危険性があるため、命に直結する治療を行う機会が多い診療科といえます。
脳神経外科の医師はCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像法)などの検査で脳の異常を診断し、患者さんの状態に合わせて、薬物療法、血管内治療、手術などを行います。高齢者の増加に比例して、今後脳梗塞などの脳血管障害で倒れる方も増えることが予想されるため、脳神経外科の役割はより一層重要になるでしょう。
食道・胃・胆嚢・膵臓・肝臓・小腸・大腸など消化管やその周囲の臓器の病気の診察・治療にあたるのが消化器内科の医師の仕事です。消化器内科を受診する患者さんが訴える症状は腹痛、胸やけ、嘔吐、下痢などです。
胃は暴飲暴食による影響に最も敏感な臓器です。ストレス社会を反映してか、心因的な要因による胃潰瘍の方も少なくありません。夏場は腸炎ビブリオ、冬はノロウイルスの食中毒による胃腸炎で来院する小児や高齢者もいます。腸は、下痢と便秘の繰り返しが異常のサインとなります。
消化器内科の医師は問診や触診で痛みの場所を確認したうえで、必要にあわせて内視鏡などの検査を実施します。内視鏡検査は医師が直接、自分の目で食道、胃、十二指腸を観察できる優れた検査法です。手術が必要と判断された場合には外科医と連携して治療にあたります。
整形外科の医師は、全身の骨や関節、筋肉、神経などの病気と、外傷による損傷を治療します。高齢者が急速に増加している昨今、肩やひざの関節の痛み、骨密度が低下して骨がスカスカになる骨粗鬆症による圧迫骨折、スポーツ中の怪我、関節リウマチなどで整形外科を受診する方が増えています。
診察では先ず問診を行い、痛みのある場所を確認するため触診で問題の部位を抑えたり、関節を曲げたりします。X線撮影は検査の基本で骨折や関節の変形などがひと目でわかります。治療の中心は薬物療法もしくは手術、理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションとなります。
子供が病気になった時は勿論、乳児の健康診断(身長・体重・胸囲等の計測、股関節の状態や首の据わり具合などを調べる)、麻疹やおたふく風邪などの感染症の予防接種など、子供の健康な成長や発達を見守るのが小児科医の仕事です。
成人と比較して表現力に乏しい子供は、自分の体に異変を感じていても上手に医師に伝えることができないケースが多いので、医師は、聴診器で心肺の異常を調べたり、喉や耳・鼻の状態を調べる際には注意深く観察する必要があります。
子供は注射や点滴を見ると泣き出したりするので、小児科医には子供を安心させるための言葉のかかけ方の工夫、子供の親とのコミュニケーション能力などが問われます。子供の成長速度は速いので、同じ小児用の薬でも年齢や成長段階にあわせて種類や量を調節することも求められます。
産婦人科は、妊娠・出産期の妊婦さんと胎児を診る「産科」と、子宮や卵巣などの女性特有の臓器の病気を診る「婦人科」の別々の診療科をまとめて呼んだものです。産科では、子宮の中の様子を腹部エコー検査で観察し、胎児の成長に異常がないかを見守ると同時に、妊婦さんが健康な状態でお産を迎えられるように健康狩を行います。出産の際には助産師と一緒に立会い、必要に応じて帝王切開手術を行うこともあります。
婦人科では、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気、生理やおりものに関するトラブルなどを診察します。女性の晩婚化が進む中、結婚した際に自分が妊娠できる体なのかといった妊娠に関する悩みの相談をするブライダルチェック(結婚前の婦人科検診)を行って、妊娠や分娩に支障をきたす病気がないかを調べたりします。
あるいは若い世代に増えているクラミジアや淋病をはじめ、膣カンジダ、性器ヘルペス、トリコモナス膣炎、尖圭コンジローマ、エイズといった性病の検査も実施したり、20~30代の発症も珍しくない子宮頸がんの細胞診を行ったりします。そのほか、ピルに関する相談や処方も行っており、中学生から閉経以降の女性まで幅広い患者さんが婦人科を受診しています。
婦人科の検査は内診、おりもの・膣分泌液の採取、経膣超音波検査など女性が羞恥心を少なからず感じるものが多いため、受診しずらいという女性も少なくないようです。しかし、近年は女性の婦人科医が在籍している婦人科も増えてきているので、気軽に受診できる環境が整いつつあります。
麻酔が必要となる手術や検査、ICU(集中治療室)での心拍数や呼吸などの管理を行うのが、麻酔科医の仕事です。手術の際には、術式や患者さんの状態、薬物アレルギーや心臓病の有無を調べて、最適な麻酔の選択を行います。患者さんの不安を取り除くために、手術前日には患者さんに麻酔についての説明をして、理解してもらうのも大切なしとです。
手術当日は、執刀医よりも先に手術室に入り、患者さんのバイタルサインを監視するモニターや人工呼吸器のチェックや、シリンジポンプのセッティングをおこなってから、患者さんに麻酔をかけます。安全に手術が行えるように複数の麻酔科医とともに作業をすることもありますし、看護師との連携も大切です。
麻酔科医は手術中もずっと患者さんに付き添い、心電図や血圧計をモニターしながら麻酔薬や点滴の量を調整します、何か異常があった際には、輸血等の処置を行います。無事に手術が終われば回診を行い、術後の経過を見守ります。
海外の医療ドラマで一躍有名になった「ER」はEmergency Room(救急処置室)。病気や怪我は時と場所を選ばずに起こるので、ERには毎日、朝から夜遅くまで多くの救急患者がやってきます。ERの医師の役割は、複数の診療科にまたがる症状や怪我を総合的に診断して治療することです。
患者さんが病院に救急搬送されてきたら、処置室に患者さんを運びます。医師は、患者さんの病歴やバイタルサイン(血圧・体温・脈拍数・呼吸数)などの情報を元にして、病気を判断します。診断が難しい場合には、その症状に該当する病気を専門としている専門医に協力してもらいます。
救急は1分1秒を争うので、救急車の中には人工呼吸器、除細動器、超音波診断装置などの医療機器が設置されています。現在は患者が病院に搬送されるだけでなく、救急現場に医師を直接派遣することで、救命率の上昇につなげようというドクターカーも活躍しています。
病気の診断のために採取、切除した組織を調べて、異常な組織細胞(がん細胞など)がないか、どの程度病気が進行しているのか、あるいは治療で病巣は完全に消えたのかを判断し、治療を行う医師に情報を提供するのが、病理医の仕事です。
通常、採取した組織や臓器は、薬剤に浸して防腐処理と組織を固めてから標本にしますが、診断結果を見て手術方針を決める場合などは、手術中に採取した病変を直ぐに検査します。
また、患者さんが亡くなった場合には、生前の病気の診断や治療方針は適性だったか、他に病気が隠れていなかった科など、今後の医療に生かすための情報を収集するため、遺族の許可を得た上で病理解剖を実施するのも病理医の大切な仕事です。
病理医は他の診療科の医師と異なり、患者さんを直接診ることがほとんどないため、病理科という言葉を聞いたことのない一般の方も少なくないでしょう。しかし、医療の質の向上に世界で欠かせない縁の下の力持ち的な存在なのです。